「1年の終わりに」ー失敗やひとなみでないことが人を育てるー(12月20日)
2学期終了
今日で2学期の保育が終了し、今年も後10日ほどを残すばかりになりました。2学期は行事も多く様々な機会に子どもたちの成長を観ていただけたことと思いますが、幼児教育は目に見えない教育とも呼ばれていて、その成長がわかりにくいところあったのではないかと思います。今年世間を騒がせた幼稚園なども3才から教育勅語を暗唱させることをしていて、保護者の方は「すごい!」「賢い」「行儀がいい!」と思って入園されました。このような「できた」はとても分かりやすいですが、幼児期に出来たかどうかで判断されることが多いと小学校に入学した後に、隣の子が消しゴムを忘れたときに先生に「あの子消しゴム忘れてる」って告げ口したり、いじめに加わることが多くなるような報告もされています。本来は、忘れた子が居たら「困ってるだとうなあ」と感じて貸してあげるような子に育ってほしいのにとても残念なことです。
発達にはその時々に成長すべきことがありますし、成長と思えない時もあります。例えば、3才の子が自分の思いをしっかり出す事が大切な時期に個々の子どもが思い思いに行動しているときには「集団」という視点で見ると成長していないようにも見えますが、3才の頃にしっかり自分を出すことが5才の時の話し合いや協同的な活動につながってきます。5才になって見通しを持つことができるようになってくると初めてすることに躊躇したり、何かママに叱られそうなことをやっちゃった時にはウソをついたりすることも出てきます。ある意味でそれらは全て発達です。
そのような発達を踏まえて、先生達は3才の頃にはしっかりと思いを受け止めることが大切な仕事になりますが、5才になると時には壁になることも大切になってきます。その壁を乗り越えることで子どもはより成長していきます。このように、一般的な発達でいうとそうなのですが、子どもはひとりひとり違うので、難しいところですね。
今年も、様々な研修に参加させていただいたり、研修に講師として呼んでもらったりしながら多くの勉強をさせていただきました。5月に岡山で開催された日本保育学会の基調講演がひじりの参観日の講演をしていただいたこともある(私が師匠と慕っている)小田豊先生でした。
小田先生のお話の中での「幼児教育においては一人一人違うことが平等である」という言葉はとても心に残りました。私自身はおとこばかりの4人兄弟の末っ子なのですが同じ両親から生まれてもこれだけ違うのかと思います。自分の子どもたち3人も本当に違っていて、人は様々で、いろんな個性を持って生まれてきます。そしてその個性をしっかり受け止めてもらうことが大切だし、自分自身もその個性を受け止めることが大切なんでしょうね。先日テレビを観ていると歌手の福山雅治さんが出ていて「1オクターブしか声が出ない」という話をされていました。1オクターブしか出ないので、歌手だけではやっていけないと思い、俳優としても頑張ったり、上の方の高い声が出ないので自分で曲を作るようになったということでした。この話を聞いて私の頭の中に浮かんだのは、司馬遼太郎さんが小学校5年生に向けて書かれた洪庵のたいまつという話です。
世のために尽くした人の一生ほど、美しいものはない。
ここでは、特に美しい生涯を送った人について語りたい。緒方洪庵のことである。
洪庵は、備中(今の岡山県)の人である。現在の岡山市の西北方に足守という町があるが、江戸時代、ここに足守藩という小さな藩があって、緒方家は代々そこの藩士だった。
父が、藩の仕事で大坂に住んだために、洪庵もこの都市で過ごした。少年のころ、一人前のさむらいになるために、漢学の塾やけん術の道場に通ったのだが、生まれつき体が弱く、病気がちで、塾や道場をしばしば休んだ。少年の洪庵にとって、病弱である自分が歯がゆかった。この体、なんとかならないものだろうかと思った。
人間は、人なみでない部分をもつということは、すばらしいことなので
ある。そのことが、ものを考えるばねになる。
少年時代の洪庵も、そうだった。かれは、人間について考えた。
人間が健康であったり、健康でなかったり、また病気をしたりするとい
うことは、いったい何に原因するのか。さらには、人体というのはどういう仕組みになっているのだろう、というようなことを考え込んだ。・・・・・・
私が小学校の教師をしている頃にこの司馬さんの話を授業でしながら、自分自身がとても励まされたように思います。個性を大切にというと得意なこと、長所をイメージしがちですが、ひとなみでないことも自分の個性で、それが自分を成長させることにつながっていくんだと思います。
この夏の研修会で辰野勇さん(アウトドアメーカー,モンベル会長)も小学校の時にみんなが行く金剛山の耐寒登山にお医者さんの健診にひっかかって行けなくて、山への思いが募ったということや粗悪な手袋で凍傷になり自分で作ろうと決心したというお話をされていました。
先日の年長組のお店屋さんプロジェクトでは子どもたちが自分たちで考えたお店屋さんを実現していく過程で、何度も何度も上手くいかないことに遭遇し、そのたびにみんなでアイデアを出し合い、話し合って課題を解決し成長していきましたが、子どもには思いが叶うことがまずたくさんあって、その後に思いが叶わないことがやってきて、それを乗り越えて、思いが叶う経験がとても大切なんだと思います。
それぞれの子どもの個性に合わせて、時に受け止め、時に助け導き、時に壁になってあげられる大人でありたいものですね。
今年も園の様々な活動にご協力いただきありがとうございました。どうぞご家族で良い年をお迎え下さい。